初めての脱走

 真夜中のホグワーツ城は気持ち悪いほどに静かだ。日中は行き交う生徒、動く絵画やゴーストで騒がしい中央ホールも、この時間になると噴水の水音が響いているだけだった。
 ミラはローブのフードをすっぽりと被り、早歩きで噴水の脇を通り抜けた。規則破りをしている後ろめたさからか、噴水の周りをぐるぐると回るセイレーンの像がこちらを睨んでいるようで気味が悪い。ミラは身震いをした。双子との待ち合わせ場所は、たしか中央ホールにある「おべんちゃらのグレゴリー」の銅像の前だったはずだ――ミラは辺りをキョロキョロと見回して銅像を探した。
 今日午後、フレッドに「城からの抜け道を見つけた」と言われた時、ミラは少なからず興奮した。もしまた城でかくれんぼ・・・・・しようとでも言われようもんなら、ミラはげんなりした気持ちで断っていたはずだ。しかし、「学校を出る秘密の抜け道」の話となれば別だ。
 ミラはホグワーツ城の中がいかに不思議かを調べるよりも、城の外の様子のほうに興味津々だったからだ。
 「ミラ、おい、こっちだよ」
 こそこそした声が聞こえてくる。フレッドとジョージが「おべんちゃらのグレゴリー」の像の前で手を振っていた。ミラはなるべく音を立てないように、履いていた雪駄を滑らすようにして二人へと歩いた。
 「すまない、遅くなってしまった」
 ミラは双子に謝りながら、フードを外してローブを脱いだ。くしゃくしゃに丸まったローブを、ミラは右足につけていたレッグバッグへと押し込む。ローブがバッグへみるみる吸い込まれていく。
 「バッグに魔法をかけてるのか?」ジョージが驚いて言う。「魔法に関心がないくせに、そういうところはちゃっかりしてるよな」
 「まあね。その自覚はあるさ」ミラは頭をボソボソと掻いて言った。
 「ミラの普段着、初めて見たよ。イギリスでは見かけないような服だけど、それも日本の?」
 フレッドがお構いなしにミラの服装をジロジロと見つめる。ミラは「ああ」と一言漏らして、自身の服を少しつまんでフレッドに披露してやった。
 「これはね『作務衣さむえ』といって、日本の伝統的な部屋着だよ。作業着として使う人も多いけど。うちの父親なんかも――」
 「シッ。ミラ、ちょっと静かに……。なあ、なんか聞こえないか?」
 ジョージがミラの説明を遮って、素早く言った。三人が耳を澄ます。なにかを嗅ぎ回るような音が聞こえる。すぐ左側にある、地下へと続く廊下の奥からだ。フレッドとジョージとミラは死角になる壁へ駆け寄り、体をピッタリとくっつけて慎重に廊下を伺った。
 「ミセス・ノリスだ!」
 フレッドがヒソヒソ声で言う。暗がりを透かしながら見てみると、確かに、ミセス・ノリスだ。やせこけて、ほこりっぽい色をした猫。飼い主であるアーガス・フィルチ――ホグワーツの管理人の――彼そっくりのランプみたいな出目金の目をギョロつかせて、罰則が必要な生徒を探しているようだった。
 「まずいよ!どうする?」ミラがフレッドの 服の裾を掴んだまま言う。
 「しょうがないな……本当ならミラにちゃんとお披露目してからがよかったんだけど……」ジョージが少しがっかりとしたような声で答えた。
 「背に腹はかえられないな、ジョージ」フレッドも同じく残念そうな顔をした。「よし、行こう。ミラ、準備はできてるかい?」
 フレッドの言葉にジョージが頷いてミラを見た。なるほど、どうやら準備・・ができていないのは自分だけのようだ。ミラは自分が何をするべきなのかがわからず、既にすぐ近くまでにじり寄ってきているミセス・ノリスと、そわそわしはじめたフレッドとジョージをかわるがわるに見比べた。
 急にフレッドがミラの腕をがっしりと掴んだ。フレッドとジョージがいつの間にか「おべんちゃらのグレゴリー」の銅像に乗り上がっていた。それからすぐにミラは腕を引っ張り上げられて、そのままなにかを言う隙も与えられずに、わけもわからないまま何か穴のようなものに双子と共に飛び込んだ。「おべんちゃらのグレゴリー」の太った背中が、黒暗に包み込まれる前に見た最後の景色だった。

 一体、私はどこに引き込まれたのだろうか。暗闇の中、ミラは体についた砂(恐らくそうだ)をはたき落としながら立ち上がった。すぐ側で、双子たちも体勢を立て直しているようだ。
 「おい、ふたりとも大丈夫か?」双子のどちらかが言った。
 「私は大丈夫だよ。きみたちのほうは?」ミラは自身のゴーグルの無事を確かめながら言った。
 「こっちも大丈夫さ」もう片方の双子が返事をすると続けてこう唱えた。「ルーモス! 光よ!
 ミラの目の前にぼやっとした白い光が浮かび上がる。その光は次第にゆっくりと広がっていき、フレッドが自身の杖先に照らされながら現れた。フレッドはミラを見つけるとニヤリと笑いかける。
 「ルーモス! 光よ!
 真横からまた呪文が聞こえる。今度はジョージが浮かび上がってきた。やはりジョージもニヤニヤとしている。――まったくこの二人は、常にニヤニヤしていないとどうにかなってしまうのか?
 「一年の最初の授業でこれ・・を僕らに教えたのは間違いだったな」フレッドは言った。「この呪文がなきゃ、僕たちが抜け道を見つけるまであと一日くらいは時間稼ぎできただろうに」
 「ミラ、きみも『杖光りの呪文』を頼むよ、光はひとつでも多い方がいいだろ?」ジョージがミラのレッグバッグを指さした。
 「ああ、そうさ。特にミラが転んだ時なんかわかりやすい」
 「もう、余計なお世話だよ、フレッド!」
 フレッドの冗談にミラが吠える。またまたニヤつくフレッドを横目に、ミラは不機嫌そうにレッグバッグから雑に杖を取りだすとしぶしぶ・・・・「杖光りの呪文」を唱えた。
 目の前の双子の輪郭が、さっきよりもはっきりとして見える。同時に状況も明るみになってきた。ミラたちのいるところはゴツゴツとした岩に囲まれた小さい洞窟のようなところで、狭い道がずっと奥まで続いているように見える。暗闇が深いせいで、どこまで続いているのかはわからない。
 「この先を行くのかい?」ミラは怪訝な顔をして双子を見た。
 「ああ。でも見た目ほど長くない」フレッドが道の先を見つめながら言った。
 それからフレッド、ジョージ、ミラは出口に向かって歩き出した。三人がこの一週間の授業についてや、これから始まる寮対抗クディッチ杯のチームについておしゃべりをしていると、オレンジ色の明かりが洞窟に差し込んできた。出口が見えてきたのだ。フレッドの言う通り、確かに思ったほど長くはなかったが、それでも二十分くらいは歩いたような気がした。
 「さて、ついたぞ」
 フレッドが先頭に出て、ぽっかりと空いた穴を覗き込んだ。ジョージもミラに手招きをしてフレッドの後に続く。ミラは慌てて二人についていった。そして次の瞬間、フレッドが消えた――いや、消えたように見えた。フレッドは出口の穴を覗き込んだあとにそこから飛び降りたのだ。動揺しているミラをよそに、今度はジョージが飛び降りた。あっという間に洞窟にはミラただ一人だけになってしまう。
 「ミラも降りてこいよ!」
 ミラが穴から顔を出すとフレッドがこちらを見あげて叫んでいた。フレッドは両手を広げている。ミラを受け止めるつもりなのだろう。ミラは少しの間ぐずぐずとしていたが、フレッドの「大丈夫だから!」という掛け声についに覚悟を決めた。
 一、二の、三!――ミラは心の中で数えて一思いに穴から飛んだ。がっしりとしたフレッドの体が、ミラを確実に受け止める。おかげでミラは少しの衝撃を受けたくらいで済んだ。
 「ありがとう、フレッド」
 ミラはお礼を言ってフレッドから離れると、辺りを見回してみた。石壁に囲まれた小さな部屋だった。天井では蜘蛛の巣と蔦が絡み合っている。ところどころに置かれている魔法の蝋燭たちはゆらゆら燃えていて、これからも消える気配はなさそうだ。
 「ここ、どこなんだろう」ミラがポツリとこぼした。
 「たぶんだけど……宝物庫とかだったんじゃないかな」
 ジョージがそう言うと、壁の端っこのほうへ目を向ける。視線の先には、絵本に出てきそうな、いかにもといったような大きな宝箱が置いてあった。
 「先客がいたみたいだけど」
 フレッドが宝箱を覗き込んで肩を竦めた。どうやら中身は空っぽのようだ。
 「おいおいフレッド、僕たちの目的は金銀財宝じゃないだろ?」ジョージの顔にニヤニヤが広がる。
 「ああ。そうだったよな、ジョージ」フレッドもニヤッと返した。
 それからフレッド、ジョージ、ミラは一列になって小部屋の先に細く伸びている道を歩いた。そしてちょうど角を二度曲がった時だった。ゆるやかな坂をあがった先に夜空が見える――油を塗ったような満天の星空だ。三人ははやる気持ちを抑えきれずに駆け足で出口から飛び出した。
 次にミラたちの目に入ったのは辺り一面に広がる湖だった。洞窟は湖岸に繋がっていた。この湖は恐らくホグワーツ城を囲っている「黒い湖」だろう。つまり、無事に城の外に出ることに成功したのだ。
 「すごい!」ミラは歓声をあげた。「本当にホグワーツの外に出られた!」
 「なんだ、僕らを疑ってたのかい?」フレッドがミラをからかった。
 「もう。そういうことじゃないよ」ミラは呆れ笑いを返す。
 「前に抜け道を見つけた時、僕たちが来たのはここまでだった」ジョージが言った。「それで?ここからどうする?」
 フレッドは辺りをキョロキョロと見回して、探るように歩き出した。ミラとジョージも後ろに続いた。宝物庫の入口があった壁に沿って進むと、少し険しい坂が見えてきた。その先には鬱蒼とした林冠も見える。どうやらここは崖下だったようだ。
 三人はそのまま坂をゆっくりと登る。真ん中くらいまで登ったとき、左側に木の小屋が見えてきた。戸口には石弓と防寒用の長靴が置いてある――しかしどちらも普通の大きさではない。石弓は持った途端に腕がつってしまいそうなほど大きかったし、長靴に関してはミラなら中に体ごと入れてしまうのではないかというくらいだった。一体、誰が……。
 「ミラ、こっち!」
 突然フレッドがミラの腕を強引に引っ張った。ミラは思わず転びそうになってしまう。しかし、フレッドはそんなことお構いなしに引きずるようにしてミラを坂上の木の茂みまで連れていった。ジョージも一緒に真っ暗な茂みの中に飛び込む。それから双子は背を低くし、息を潜めて小屋をまっすぐに見つめた。
 ここまでほとんど一瞬だった。何が起こったのかわからず、双子の機敏な動きにどこか感心しながら、ミラも双子の目線を追った。
 明かりの着いた小屋から男が出てきた。ミラはこの男を――いや、この大男・・を知っている。森の番人、ルビウス・ハグリッドだ。入学初日、ミラたち新入生をホグワーツ城まで案内してくれた人だ。こんなところに住んでいたのか。ハグリッドはランプを持って、これからどこかに出掛ける様子だった。
 「ジョージ」フレッドが言った。
 「ああ」とジョージ。「ありゃあ『禁じられた森』に行くつもりだぜ」
 「ちょっと待っておくれよ」ミラが口を挟んだ。「きみたち、『禁じられた森』に行くのが狙いだったの?」
 「そうさ」フレッドが答えた。「今回は難しそうだけどな」
 フレッドはがっかりしたような声で言ったが、ミラは心底安心した。禁じられた森に行くなんて冗談じゃない。あそこには危険な魔法生物がたくさんいると上級生が言っていたのをミラは聞いていた。フレッドたちはだからこそ・・・・ ・行きたいのだろうが。
 行き場を失った三人は、ハグリッドが消えたのを確認するとひとまず湖に沿って歩いてみることにした。しばらく道なりに歩いて、湖にかかる木の橋を渡って対岸に到着した時、三人は不思議なものに出会った。
 人ひとり立てるくらいの小さな丸い石畳だ。それは妙な模様をしている上に、四本の木の根が四角を結ぶようにして生えている。それぞれの根から生えた木の葉たちは絡み合っていて、上の方でひとつの茂みになっており、まるで草木で作った天井のようだ。
 「なんだろう、これ」ミラは木に駆け寄ってまじまじと見つめた。
 「ここで雨宿りでもしろってか?」フレッドが笑った。
 「こっちも見てみろよ」
 少し離れたところをウロウロしていたジョージがフレッドとミラを呼んだ。ジョージは自身の背丈ほどの石柱を見つめていた。石柱の上には松明がメラメラと燃え盛っていた。他にも二つ、「四つの根」を囲むようにして同じような石柱が立っている。
 「絶対なんかある!」フレッドがひどく興奮した様子で言った。
 「確かに怪しいが――」ミラは顎に手をやりながら「四つの根」と石柱をいったりきたりした。「なんにもないよ。怪しいだけで、本当になにもない」
 「もしかしたら、もう全部終わっちまったあとなのかもな」
 ジョージが首を傾げて言った。ミラもウンウンと頷くと、フレッドは口角を曲げて頭を搔いた。
 それからしばらく辺りを探索した。双子たちは岩場にあった「アッシュワインダーの卵」を見つけては、ミラのレッグバッグにこれでもかというくらいにしまいこんだ(何に使うのかは聞く気にもならなかった)。金貨の山に囲まれた不思議な木を見つけたとき、そこがニフラーという魔法動物の巣だとフレッドとジョージに教えてもらったときはびっくりした。ミラは魔法動物の住処を見るのが初めてだった。
 こうして三人は探検を大いに楽しんだ。そして水辺に肌寒い風が吹き、ミラたちが身震いをしたところでそろそろお開きにしようという話になった。
 三人は湖の橋を渡ろうと体を翻した。その時、ふと空を見上げたジョージが感嘆の声を漏らす。ジョージの声にフレッドとミラも視線を上げる――そこには想像もしていなかった絶景が広がっていた。
 青黒い夜の色よりも真っ黒な影になったホグワーツ城が厳かに佇んでいた。大小の塔たちが大きな星々が煌めく夜空に向かって堂々と伸びている。この光景は、三人が今ホグワーツ城の外に立っているということを確実に表していた。
 「すごい……」ミラはホグワーツ城を見上げた。
 「ミラ、あれ……」
 右を向いたフレッドが指をさした。先には鉄道橋が見える。ホグワーツ特急の列車が走っていた線路だ。
 「線路がどうかしたのかい?」
 「違うよ、その上だ」フレッドがまた指をさしなおした。「ほら、山がたくさんあるだろ?ミラの言ってたやつ・・・・・・もあの中にあるんじゃないか?」
 「確かに」ジョージもフレッドに続いた。「鉱山にあるって言ってたよな?あれだけ山があれば、鉱山のひとつやふたつもありそうだ」
 「『蒸気機械』が、あそこに……」ミラの物憂げな瞳が一瞬にして煌めいた。
 「蒸気機械」とは、魔法を使わず蒸気のみで動く機械のことだ。小鬼が所有する鉱山にあるとされていた。魔法でなんでもできてしまうこの世界で、そのような機械があるというのなら一度でいいから拝んでみたいとミラは思っていた。これが、ミラが城の外に出たがる大きな理由だった。
 「これは何度でも城を抜け出す必要があるな?」フレッドがニヤリとする。
 「城からの抜け道はあそこだけじゃないはずさ」ジョージが言う。「あれだけでかい城だ。ここからもっと遠いところに続く秘密の抜け道もあると見たね」
 「やれやれ」ミラが呆れと嬉しさを交えたような声色で言った。「しばらく城探検・・・も継続というわけだ」
 ミラの言葉にフレッドとジョージは嬉しそうにお互いを見合わせてから同時にミラに飛びかかった。
 「苦しいって!二人とも!」
 双子にきつく抱きしめられたミラは息を詰まらせながら呻いたが、双子の肩越しに見える山々を見てしまっては気持ちの高まりを抑えることをできなかった。

   ミラの初めての城脱走は大成功に終わった。いや、そう思っていた。少なくとも大階段に辿りつくまでは。
 「そこで何をしている?」
 聞き覚えのある独特な低い声が、大階段に響き渡った。振り返るまでもない、誰に呼び止められたのかミラにはわかった。そしてその人物はミラが今一番会ってはならない人だった。
 「ス、スネイプ教授」
 「聞こえなかったか?何をしていると聞いたんだ。こんな真夜中に……」
 スネイプ教授は「杖明かりの呪文」のかかった杖先をミラの鼻の先まで持ってきてミラを睨んだ。
 「み、道に迷ってしまったんです…。トイレに行きたくて」
 「嘘をつくのなら、もっとましな嘘をつくんだな。トウドウ」スネイプが嫌な猫なで声で言った。
 「本当です!」ミラは目を白黒とさせながら叫ぶ。「スネイプ教授、私はトイレを探していたんです。誓って──本当なんです」
 「黙れ!」
 スネイプの怒鳴り声にミラの体は跳ねあがった。スネイプはミラを見て目を細めながら続けた。
 「誰といた?」
 「ずっとひとりです。ひとりで迷っていました」
 「嘘をつくな」スネイプ教授は腹から絞り出すような低い声で囁いた。ミラが初めてスネイプ教授に怒られたときとおんなじ声だ。「お前も、余計なことに首を突っ込んでいるんだろう?誰に何を吹き込まれた?」
 「なんの話ですか?私は本当に何も……」
 ミラの消え入りそうな声は、突然の足音にかき消された。スネイプ教授の後ろから階段を駆け上がる音が聞こえてくる。
 「ス、スネイプ教授、大変です!ま、また呪われたの部屋の……」
 「クィレル教授!」スネイプ教授はぴしゃりと言って、クィレル教授の言葉を大きい声で打ち止めた。
 この人のことは知っている。マグル学を教えているクィリナス・クィレル教授だ。三年生になるまで「マグル学」の授業を受けるのが待ちきれなかったミラは一度教室を覗いたことがあった。その時に一度クィレル教授と話したことがある。とんがり帽子をかぶった気弱そうな先生だ。
 「ミ、ミス・トウドウ?どうしてここに……」クィレル教授はミラに気づいたのか、驚いた顔をして口を手で覆った。
 「あの、トイレに……そうしたら道に迷ってしまって……」ミラはもそもそと答える。「ところで、今言ってた『呪いの部屋』って……?」
 「いや、あの……そ、それはですね……」
 「もういい!トウドウ!」スネイプ教授がまた怒鳴った。まるでクィレル教授にこれ以上話をさせたくないといったふうだ。「もう寝室に戻りたまえ!私が、きみに退学通告を出す前に!
 「どうもすみませんでした!」ミラはスネイプの気迫に押し出されるようにして大階段を転がるように急いで降りた。足をもつれさせながら必死に走り、地下へ続く階段を前にしてようやくミラは一度呼吸を整えた。
 よくわからないけど、なんとかなった。なんという幸運か。減点もされていない。「呪いの部屋」という物騒な言葉は少し気になったが、今となってはどうでもいい。とにかく、全てクィレル教授のおかげだ。
 ほっとした気持ちで地下階段を下りるとき、遠くのほうで変な抑揚のついた甲高い声が聞こえた。悪戯好きのポルターガイスト、ピーブズが何かを叫んでいるようだったが、どんなことを言っているのかまではミラの耳には届かなかった。
 「聞いーたぞ!聞いたぞ!ミラ・トウドウが寮を抜け出してスネイプに怒鳴られた!ほんとうだぞ!」      

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