飛行訓練

 九月も半ばに差し掛かった。冷たい風は頬に心地よく、秋の深まりを知らせていた。しかし、このところのミラはずっと機嫌が悪かった。
 あの日――初めて城を脱走した日の――次の朝、寮を出たミラを待ち受けていたのは、「スネイプまでもミラ・トウドウをスリザリンに間違えた」という噂で持ち切りの大広間だった。
 真相を確かめるべくハッフルパフのテーブルに駆けつけたフレッドとジョージによって噂の全容を知らされた。
 深夜に出歩いていたミラを見つけたスネイプが、スリザリン生と間違えて寮に戻らせようとしたというのだ。
 まったくのデタラメだ。スリザリン生になんか間違われていない。それにクィレル教授がいなければ、無事に寮まで帰れたかもわからないというのに。
 ――まさか……。ミラはスネイプ教授から逃げ出した時に、遠くの方でピーブズが騒いでいたのを思い出した。そうだ、あのバカなポルターガイストがある事ないこと生徒たちに吹き込んだに違いない。
 しかし確信したところで、もう遅かった。ピーブズに誤解を解けと怒ったところで、彼がミラの言うことを聞くようには思えなかった。血みどろ男爵に頼んでみるか?無理だ、話しかける前に恐怖で気絶してしまう――この間にも他寮の生徒はひそひそ声でミラの噂話をして盛り上がっている。もうどうにもできなかった。アダリンや他のハッフルパフ生はミラを同情の目で見つめていたが、みんなの口角はヒクついていた。面白がっているに違いない。だがミラにとって本気にされるよりそっちのほうがありがたかった。結局この噂からミラには「スリザリン顔」というあだ名がついてしまった。未だにスリザリン生と間違われることが多いというのに、これでまた話がややこしくなるぞ……。ミラはがっくりと肩を落とした。
 また、残念なことにこの一件だけがミラの不機嫌の理由ではない。
 ホグワーツでの生活が二週目に入ったころ、グリフィンドールとの合同授業が何度か行われた。この合同授業そのものがミラの気が滅入る原因だった。ちょうどこのころに、双子の悪戯に拍車が(磨きともいえる)かかりはじめていた。双子は何かにつけて授業中の悪戯やおふざけにミラを巻き込むのだ。
 ミラの羽根ペンに魔法をかけて先生をつついてみせたり、先生に失礼な事を言った後にミラに同意させるように仕向けたり……。さぁ今日は双子から遠い席を取ってやったぞという日でも油断ができない。後ろの席からからかってきた・・・・・・・二人に悪態をついているうちに、いつの間にか先生が背後に立っているなんてことがあった。フレッドとジョージは毎回見事にひっかかるミラが楽しくてたまらないのだ。
 もちろん減点があった。グリフィンドールとハッフルパフそれぞれからだ。ミラはこれが一番納得いかなかった。
 納得がいかないのはアダリンも同じのようで、ミラが減点されるたびにため息をついて双子たちを睨んだが、二人はちっとも気にしていない様子だった。初めて減点された魔法薬学の授業が遠い昔の出来事のようにミラは感じはじめていた。
 このことで唯一救いだったのは、フレッドとジョージの二人が既に学校中の人気者であったおかげでミラを咎めるハッフルパフ生がほとんどいなかったことだろうか。
 こうしてミラは学校生活に波風を立てたまま半月を過ごした。しかしこれはとっ始めでしかなかった。ミラを更に気負いさせる「お知らせ」が、談話室に掲示されることになる。
 ――飛行訓練は木曜日に始まります。グリフィンドールとハッフルパフの合同授業です――

 その日の午後三時半、初めての飛行訓練を受けるため、ミラとアダリンは他のハッフルパフ生と一緒に正面階段を降りて校庭へと向かっていた。みんな楽しそうに飛行の話をしている。しかし、ミラはひどく憂鬱だった。
 『帰らせてくれ――日本に』
 ミラは青白い顔をしながら日本語で呟く。隣で「クディッチ今昔」を読みながら歩いていたアダリンは思わずブーッと吹き出した。
 「ちょっと、急に変なこと言わないでよ」アダリンは顔を真っ赤にしながら口元をピクピクとさせた。
 「いくらウィーズリーの双子だって、貴方の箒に悪戯をするなんて危なっかしいことは流石にしないはずよ」
 「そういうことじゃないんだ。いや、そういうこともあるんだが……」ミラは目を伏せる。「その、ダメなんだ。空が、ちょっと……」
 「まあ!」
 アダリンは信じられないといったような様子で驚いて声をあげた。ちょうどハッフルパフの軍団が傾斜のある芝生を下り、飛行訓練場にたどり着くというときだった。
 グリフィンドール生たちは既に到着していて、平坦な芝生には二十本の箒が整然と並んでいる。
 「そんなはずはないわ」アダリンはグリフィンドール寮生を一瞥してから、彼らには聞こえないように小声で確認した。「だって貴方はマホウトコロの出身でしょう?十歳までは毎日ウミツバメに乗って通学するって聞いたことあるもの」
 「だからこそさ
 はっきりした口調でそう言い切ったミラは箒を横目に吐きそうな顔をした。ああ、そうだ。マホウトコロさえなければこんなことにはなっていなかった。
 アダリンが言いたいことは、つまりこういうことだろう、「毎日空を飛んで学校に通っていたのだから高いところなんかへっちゃらでしょう」。毎日を楽しみに、意欲的に通っていた生徒であればそうだっただろう。だが毎日無理やりにオオツバメに乗せられ、嫌々通学していたミラにとってはどうだろうか。
 「高所恐怖症なわけじゃないんだ」ミラは虚ろな目をして言った。「空を飛ぶこと・・・・・・が、私にとって一番最悪な出来事を思い出させるのさ」
 「一種のトラウマってわけね……」
 アダリンが片方の口角を曲げながらため息を吐いた。ミラもつられるようにふうっと肩で息をする。
 「初めての飛行訓練の授業にようこそ。指導するのは私、マダム・フーチです」
 マダム・フーチが来た。白髪を短く切り、鷹のように鋭く黄色い目をしている。
 「ボヤボヤしてないで、みんな箒のそばに立って!さあ、早く」
 マダム・フーチのガミガミとした一声で生徒たちは慌ただしく箒のもとへ駆け寄る。フレッドとジョージは言われなくとも箒のそばにいた。二人は二年生になったらクディッチのチームへの入団テストを受けるつもりだとミラによく話していた。大好きな箒を前にしては、さすがにミラへ気をやる暇もないようだ。
 「右手を箒の上に突き出して」マダム・フーチが掛け声をかけた。
 「そして、『上がれ!』と言う」
 みんなが「上がれ!」と叫んだ。
 だが、ミラの箒はピクリともしない。隣のアダリンは上手く上がったようだ。フレッドとジョージは誰よりも勢いよく手元まで飛び上がっていた。
 周りを見ると、どうやら成功した生徒とそうでない生徒で半分くらいに分かれているようだった。
 「乗り手が怖がっているようでは、箒も反応しません。もっと自信を持って、大きな声で!」マダム・フーチは声を張って言った。
 なるほど、それじゃあ私の箒は一生上がることはないだろう。ミラは少しホッとしながら思った。このまま上がらなければ箒に乗らなくて済むかもしれない。
 「そこまで!」マダム・フーチが言った。「上がらなかった生徒は練習しておくように。次は箒にまたがる方法です」
 思わず舌打ちが出た。思ったより響いたようで、マダム・フーチはキッとした鋭い目でこちらを見た。ミラがバツの悪そうにして俯くと、遠くから双子のクスクス笑いが聞こえる。
 それから、マダム・フーチは生徒たちの箒の握り方を直して回った。ミラは何度も握り方を注意された。今度はアダリンが忍び笑いをしているのが見えて、ミラはげんなりとした。
 「さあ、私が笛を拭いたら、地面を強く蹴ってください。箒がぐらつかないようにきちんと押さえて、二メートルくらい浮上して、それから少し前かがみになってすぐに降りてきてください。いいですか──一、二の、三!」
 ピーッ!と高い笛が訓練場に鳴り響いた。生徒たちは地面を蹴って箒を浮かせた。ミラの箒もなんとか一メートルくらい浮上したが、それでもグラグラと箒の柄が不安定に揺れるせいで体勢をうまく保てない。
 「ミラ、大丈夫?」
 箒に乗って優雅に浮いているアダリンが、心配そうにミラを見下ろしていた。遠くで「ウィーズリー!」というマダム・フーチの怒鳴り声が聞こえる。フレッドとジョージが二メートルどころか三メートルも四メートルも浮上して華麗なターンを披露しているようだ。
 どうしてこんなに震えてしまうんだ。自分が一番地面に近いのに。ミラは劣等感からつい視線を落としてしまった。訓練場の芝生が風に揺られてなびいている。そして手元には小刻みに震え続けている箒の柄。まさに今、自分は空の上にいる――恐ろしくなったミラはすぐに前かがみになって地面に降りようとした。
 しかし、選んだ箒が悪かったのか、ミラの体勢が良くなかったのか、箒は言うことを聞かずにより一層に震えだした。ミラは驚いてひっくり返り、低空飛行のまま逆さづりの状態になってしまった。
 ミラの様子に気付いた生徒たちから笑い声があがる。マダム・フーチがミラのもとへ駆け寄ってきて、ぶらりと揺れ続けるミラを見て目を細めた。マダム・フーチに含みのある顔をされたミラはふと苦笑いをしたせいで気が抜けてしまい、ドスンと箒から落ちた。
 「あなたは特に練習が必要なようですね。ミス・トウドウ」マダム・フーチは呆れたような声を出す。
 「そのようです、マダム・フーチ」
 ミラは情けなく地面に仰向けになりながら、愛想笑いを広げた。
 「おいおい、双子の『悪友』のくせに。箒を使った悪戯はどうするつもりなんだい?」
 突然、生徒の誰かが叫んだ。すると、グリフィンドール生たちからドッと笑い声が沸いた。いまなんといった?「双子の『悪友』」だって?ミラは素早く起き上がって双子に目をやったが、二人は分かりやすくミラから目を逸らすのだった。

 「『悪友』ってどういうことだい?
 授業が終わった後、ミラはそそくさと逃げようとする双子を捕まえて、怪訝な顔で問いただした。
 「さあ。僕、よくわかんないな。なあ、ジョージ?」
 「ああ、フレッド。僕もだよ」
 二人はいつもの調子のよい声色で答えたが、一瞬の焦りが見えたのをミラは見逃さなかった。ミラは眉間の皺をキュッと寄せて、たたみかけるように言った。
 「君たちが言ったのかい?」
 「いや……あいつらが勝手に言い出したことさ」フレッドが一瞬ミラから目を逸らす。
 「『火のない所に煙は立たぬ』」ミラは地響きが起こるんじゃないかというくらいの低い声を出した。「日本のマグルのことわざだ。……意味は、わかるね?」
 ミラの言葉にフレッドとジョージは互いに顔を見合わせて、降伏したような顔をした。
 「まあ、その、あいつらはさ、合同授業で僕たち・・・がやらかすのを楽しみにしてるんだ」フレッドは頭を掻いて言った。
 「あとは、そうだな……。この間の城を抜けたときの話をちょびっとな──」とジョージ。
 「ふうん。私たち・・・の悪戯に、それから城の抜け出しね……」ミラの額に筋が浮く。「つまり、きみたちが火を起こした張本人たちじゃないか!」
 「張本人になるのはいつだって得意技だからな」フレッドがニヤリとした。
 「フレッド!」
 ミラは両手を振り上げてフレッドの腕を何度も叩いた。フレッドはミラの拳を受け止めながら楽しそうにしている。そのうち、フレッドがミラの両手首を捕まえてみせると勝ち誇ったようにニッコリと笑ったので、ミラは諦めて手を引っ込めた。そのかわりに、眉毛を吊り上げて嫌な顔をしてやる。しかし双子はその顔に更に笑いを深めたので、すぐに気の抜けたような顔に戻すはめになった。
 「『スリザリン顔』に『悪友』……」ミラはため息混じりに話し始めた。「入学して一ヵ月もたっていないのに、もう二つもあだ名がついてしまったんだぞ!」
 「そりゃいいね。そのうち『蛙チョコレート』のカードの取材がくるぞ」ジョージが顔中にニヤリを広げて言った。
 「馬鹿にするなよ、ジョージ!ああ、もう君たちって本当に……」
 ミラはジョージとフレッドを睨みつけると、肩をそびやかした。
 「きみたちには言ったと思うけど」ミラは言葉を続ける。「私は何事もなく穏便にホグワーツを卒業するつもりなんだ。そして──」
 「一刻も早く日本に帰る、だろ?」フレッドがミラの言葉を待たずに言った。
 「それから、マグル相手に商売したいんだっけ?」ジョージも口を挟んだ。
 「その通り」ミラは両腕をがっちりと組んで真面目な顔をした。「お願いだから邪魔しないでおくれよ」
 「寂しいこというなよ、ミラ」フレッドがわざとらしく声を震わせて涙を拭う仕草をする。
 「そうだよ、僕たちはずっと一緒だろ?我々は、運命を共にした『悪友』……」
 ジョージが片腕を出して、ミラの両肩に回した。ミラはむっつりとした顔をしてそれを振り払う。ジョージは舌を出してやれやれと肩をすくめた。
 「まったく――」ミラは深いため息をついた。「もう行くよ。また夕食のときに」
 ミラはフレッドとジョージに投げやりに手を振ってから中央ホールの階段へ歩き出そうとしたが、どういうわけかフレッドがすぐにミラの肩を乱暴に掴んでそれを制止した。
 「ちょっとまてよ。ミラ、一人で戻るのか?」フレッドの表情には少し焦りが見える。「アダリンはどうしたんだい?」
 「アダリンなら、ほら……」
 ミラは訓練場のあった方向の空を指差す。上空ではアダリンと思わしき生徒が、箒に乗って鳥のように自由自在に飛び回っていた。
 「箒が気に入ったみたい――理解できないが――夕食ぎりぎりまで練習するって言ってた」
 「そういうことか」ジョージが顎をかいた。
 フレッドとジョージの二人は互いに顔を見合わせ、同時に頷く。双子の深刻な表情にミラはちんぷんかんぷんな顔をして二人を見つめた。
 「僕たちも一緒に行くよ」フレッドが言った。
 「どうしたんだい?私が道に迷うとでも――?」
 「違うよ」ジョージが首を横に振り、目を見開いた。「ミラはあの噂知らないのかい?」
 「噂?」ミラはポカンとした。
 「相変わらずの鈍感だな」フレッドは呆れたような顔をする。「最近、呪いで石化された生徒がいるって、聞いたことないか?」
 「なんだって?
 ミラはつい大きな声を出してしまった。想像していたより何倍も物騒な噂だったからだ。呪いで石化した生徒がいるってどういうことだろう。フレッドやジョージの悪戯とかではなくて?いったい誰がなんのために?自分で考えればきりがない。
 「それ、本当なのかい?ただの噂じゃ……」
 「ただの噂さ。ほとんどの生徒にとってはね」ジョージは顔をミラの耳元まで近づけて、できるだけ声を小さくして言った。「でも僕たちにとっては違う」
 「つまり、噂が本当だという確信があると?」ジョージにつられてミラも小声で囁いた。
 「ああ」フレッドが頷く。「石になったやつはグリフィンドールの上級生さ」
 「グリフィンドールの、上級生……」
 ミラはフレッドの言葉を反芻するかのように呟いた。
 「僕たちの友人が関わってる。ビルとチャーリーも……」フレッドの声が誰よりも小さくなる。
 「おいおい、フレッド」ジョージが口を挟んだ。「話しちゃっていいのか?」
 「ミラには話すべきだ、ジョージ。危険なことに巻き込まれる可能性があること、そしてもし巻き込まれた時に助けを求める相手も知っておかなくちゃ」
 「ねえ、それってもしかして……」ミラは警戒するような表情で目を細めた。「『呪われた部屋』と関係がある?」
 「知ってたのかい⁉
 フレッドとジョージが同時に叫んだ。
 そうだ、フレッドとジョージの話を聞かなければいままでそのことなんかすっかり忘れていた。初めての脱走をしたあの日、大階段を駆け上がってきたクィレル教授が確かに言っていた──「呪われた部屋が大変だ」と。
 ミラが「大階段」での出来事をフレッドとジョージに洗いざらい話すと、二人はミラをそそくさと連れて中央ホールを出口へと向かった。その道々、「呪われた部屋」について教えてくれた。
 「呪われた部屋」とは、ホグワーツにある五つの隠し部屋のことだった。部屋には古代の呪いがかけられており、入ろうとする者やホグワーツ城に影響を与えることで知られているそうだ。ミラたちが入学する前は呪いによって氷や肖像画の中に閉じ込められた生徒もいたんだという。
 アリーシャ・スミスというグリフィンドールの六年生がいる。彼女は失踪した兄の手がかりを見つけるため、「呪われた部屋」を学校生活の中で探し続けたらしい。ビルとチャーリーも友人である彼女に協力をしたそうだ。
 その結果、アリーシャ・スミスは見事四つの隠し部屋の呪いを解いてみせた。失踪したと思っていた彼女の兄は三つ目の隠し部屋の肖像画の中に閉じ込められていたというから驚きだ。
 残りの隠し部屋は一つ。その最後の部屋の呪いが、生徒を石化させたらしい。
 「私たちの学び舎にそんな物騒な部屋があるなんて、信じられないな……」
 双子の話を最後まで聞き終えたミラは恐怖で一度身震いをした。自分が思っていたよりも事態はずっと深刻なようだった。あの夜、あの・・スネイプ教授がミラに罰則を与えるよりも、その場から追い払うことを最優先したのも納得がいくような気がする。「呪われた部屋」について、その名前以上のことを生徒に知られるのを防ぎたかったのだろう。
 「今度、ミラにアリーシャを紹介するよ」フレッドが言った。
 「スミスさんを?」
 「ああ」ジョージが答える。「『呪われた部屋』のことは置いておいても、彼女は素晴らしい人なんだ!」
 「そうさ。僕たち、まだアリーシャに教わってないことがたくさんある──」
 「意外だな。きみたちがそんなことを言うなんて」
 ミラは驚いて口を手で覆った。このとんでもない暴れ者たちが教えを乞うほどの生徒とは、一体どんな人なのだろう。「呪われた部屋」の隠し部屋をもう四つも解いてるのだから、優秀な魔女に違いないだろうが……。
 「彼女はホグワーツを入学してから今までずっと、『悪戯の達人』なのさ」
 ミラの考え込むような仕草を見たフレッドは弾むような声で言った。まるでこれが答えあわせだと言いたげな声だ。ミラはおざなりに頷いていたが、言葉の意味を理解したあとに思いっきり二度見をした。
 「なんだって?悪戯の達人?」
 「僕ら、ホグワーツでアリーシャが仕掛けた悪戯の全てをまだ聞き出せていないんだ」ジョージも笑って答える。
 「きみたちは……」ミラは波がひくように手足から力が抜けていくのを感じた。「結局そっち・・・の話になるのかい?せっかく心配してもらえて嬉しかったのに。『騎士道精神』が聞いて呆れるよ……」
 「ミラのことはいつでも心配さ」フレッドが言った。「それでも、僕たちが四六時中どんなときでも悪戯が好きなのを誰が責められる?なんたって、誕生日が四月一日なんだから」
 「そうそう。これが僕ら流の『騎士道精神』ってやつさ」とジョージ。
 呆れかえるミラを前に、フレッドとジョージは瓜二つのにやにや笑いを浮かべている。初めて出会った日から今まで──そしてこれからも──何度このニヤリ顔に困らされることになるだろう。ミラがため息をつくと、肩から外れていた自分のローブがさらにずり落ちていくのを感じた。          

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