厨房の罰則

 厨房の中はミラが想像したよりずっと広かった。上の階にある大広間と同じくらいはあるだろうか。天井もやはり同じように高い。石壁の前にはずらりと、ピカピカの真鍮の鍋やフライパンが山積みになっていた。梯子が必要なほど巨大な鍋もある。そして奥には長テーブルが四つ──大広間の各寮のテーブルとまったく同じように並んでいた。ミラはピンときた。普段自分たちが大広間で食べている料理は、おそらくここから天井へ、それぞれの寮のテーブルに送られているんじゃないだろうか。
 それに、部屋中を駆け回る小さな生き物たちがいた。屋敷しもべ妖精だ。ホグワーツで出される料理は全て屋敷しもべ妖精が作っているのだとミラは聞いたことがあったが、本物を見るのは初めてだった。
 厨房のあちこちにいる(少なくとも百人はいそうだ)屋敷しもべ妖精たちはテーブルの脇を歩くミラたちに向かって会釈をしたり、頭を下げたり、膝をちょんと折って宮廷風の挨拶をした。
 ミラは、しもべ妖精たちの恭しい態度にむずがゆいような、居心地の悪さを感じた。
 ミラはしもべ妖精と、なるべく目が合わないように俯いて通り過ぎようとした。フレッドとジョージは楽しそうにこそこそ話をしながら、しもべ妖精を一人ひとり見比べている。キムさんはもう慣れっこなのだろう。ちっとも気にしない様子で歩いていた。
 テーブルの前にはレンガ造りの大きな暖炉があり、そこには小さい人影があった。暖炉の火に照らされていたその影は近づいていくうちに次第にはっきりしてきて、姿が明瞭になってきた。全身しみだらけで、眉毛のない、いかにも意地悪そうな魔女だ。とても小柄で背丈はしもべ妖精とほとんど変わらない。彼女は腕を組み、ふんぞり返ってミラたちを待ち受けていた。
 「遅いぞ」意地悪そうな魔女はミラたち三人を睨みつけた。
 「悪いね、ピッツ」キムさんは軽く頭を下げた。「新人を連れてきたよ。フレッド、ジョージ、そしてミラだ」
 「名前なんかどうでもいい」
 ピッツさんはミラと双子に一瞥を投げるとフンと鼻を鳴らした。ミラはピッツさんの見下すような恐ろしい目つきに少し身震いをしたが、フレッドとジョージはピッツさんを上から下までおもしろがるようにニヤニヤ眺め回していた。
 「ピッツはここの責任者なんだ」キムさんは双子のニヤけ顔につられて口元をヒクつかせながら言った。
 「その通り」ピッツさんは誇らしげに更にふんぞり返った。「ピッツにはほかの屋敷しもべ妖精に仕事をやらせる責任があるんだ。規則破りの人間の罰則も」
 「よ、よろしくお願いいたします。ピッツさん」ミラは深々とお辞儀をする。
 フレッドとジョージはピッツさんに圧倒されているミラを見て、今度はからかうようにクスクス笑った。これをピッツさんは見逃さなかった。
 「なぜ笑っている?なにがおもしろい?ピッツにはわからないぞ」
 ピッツさんがそう言っても、双子のクスクス笑いは止まらなかった。キムさんは肩をすくめ、やれやれと困り笑いを浮かべていて咎める様子もない。ピッツさんのむっつりとしている顔を見て、ミラは無我夢中になって口を開いた。
 後になって思えば、これがいけなかったのだ。
 「フレッド、ジョージ!これからお世話になる魔女に対して、そんな態度よくないぞ!」
 ──ミラの叫び声に、厨房は急に水を打ったように静かになった。みんなしーんとしている。キムさんは、何を言っているんだといわんばかりの顔をミラに向けている。料理に終始していたしもべ妖精たちでさえ、さっと口をつぐんで、テニスボールほどある巨大な目玉をいっせいにミラに向けていた。
 何か変なことを言ってしまっただろうか?ミラは不安な気持ちになりキョロキョロとあたりを見回すが、誰もなにも言わない。さっきまでニヤニヤをやめなかったフレッドとジョージは、目を丸くしてミラを見つめていた。張り詰めた沈黙が、ミラの肌にびしびしと食い込んでくる。
 「アー……、君さ、もしかして……ピッツのことを魔女だと思ってたの?」
 キムさんが周りにわざと聞こえるような囁き声で言った。ミラは、キムさんとピッツさんの顔を交互に見てから恐る恐る頷く──その瞬間、フレッドとジョージが同時にブーッと噴き出した。
 「おいおい、冗談だろ!」フレッドがバカ笑いしながら言った。「なんでこいつが魔女になるんだよ!」
 「どこをどう見たって、屋敷しもべの妖精じゃないか!」ジョージは笑いすぎて流れた涙を拭いている。
 「それにもう一つ。ピッツは男だよ」とキムさん。
 「え?──エーッ⁉
 ミラの叫び声で、キムさんもついに声をあげて笑いだした。どうやら、自分はとんでもない勘違いをしていたようだ。ミラは顔が燃えるように赤くなるのを感じて、すかさず手のひらで自分の顔を覆って下を向いた。
 「お前は無礼なやつだ……ピッツは……ピッツは魔女なんかじゃないぞ……」ピッツが怒りを押さえつけるようにわなわな声で言った。
 「あ、あ、あの、その……ごめんなさい!」
 ミラは何度も腰を折って必死に謝った。フレッドとジョージがうずくまって、声を殺して、息ができなくなるくらい笑っているのが横目に見えた。罰則さえなければ、とっととこの場から逃げ出していたに違いない。
 「ミラ・トウドウ、君のことを見くびっていたようだよ」
 大満足といった調子で前に出てきたキムさんは、わざとらしく咳払いをすると、ピッツの方を見てまた口を開いた。
 「許してやってくれ、ピッツ」キムさんの顔にはまだニヤニヤが残っていたが、なだめるような表情を顔に貼り付けた。「ほら、早く料理に取りかからないとハロウィーン・パーティに間に合わないよ。いいのかい?」
 キムさんはそう言いながらピッツの背中をポンポンと叩いた。ピッツは苦い思いを噛みしめるように顔を歪め、ミラをチラリと見るとため息をついた。
 「ジェイの言う通り」ピッツの鼻息はまだ微かに荒い。「ピッツにはこんなバカな生徒に構っている時間なんかないんだ。お前たちには、さっさと罰則を受けてもらうぞ!」
 ピッツがパンと手を叩くと、それまで動きを止めていたしもべ妖精たちが慌てて仕事に戻っていく。それからピッツはミラたちに罰則の内容について詳しく説明しだした。
 ミラはほっとした気持ちでキムさんを見た。キムさんはミラの視線に気づくと、こっそりとウィンクをしてくれたので、ミラは小さく頭を下げた。
 そしてハロウィーン・パーティのごちそうのため、サンドイッチを作る罰則が始まった。テーブルにパンを広げて、レタスとベーコンにマヨネーズをかけて挟む。ひたすらこれの繰り返しだった。ピッツがよしと言うまではサンドイッチを作り続けなくてはいけない。
 「ずいぶんと仕事が早いね、君」
 ミラが十三個目のサンドイッチを作り終えるころ、キムさんが話しかけてきた。ミラが顔をあげると、キムさんの驚いた顔が目に入る。キムさんの手元にはまだ数個のサンドイッチしか並んでいなかった。
 「ミラはここにいる誰よりも器用だよ、ジェイ」フレッドがサンドイッチにうんざりしながら、キムさんに言った。
 「毎日マグル製品ばかりいじってるからね」ジョージも続いた。
 「へえ、マグル製品が好きなんだ。その話も気になるけど、その前に……」キムさんが目を細めて双子を見た。「君たちにいたっては、サンドイッチの作り方をまるで知らないようだけど……」
 フレッドとジョージの目の前には、ぐちゃぐちゃになったレタスとベーコンが四方八方に散乱していた。マヨネーズはテーブルいっぱいに飛び散っていて、サンドイッチは見る影もない。キムさんの呆れたような視線に、フレッドとジョージは眉根をちょっと吊り上げて互いに目配せをした。まるで、キムさんの指摘が心外だといわんばかりの態度だ。
 「まるで魔法・・だね……二人とも……」ミラはローブが片方ずるりと外れるくらい肩を落として苦笑いをした。
 「ほう。ずいぶんと皮肉は上手くなったんじゃないか、ミラお嬢様?」
 フレッドがニヤリと笑うと、マヨネーズだらけの手をミラの顔まで伸ばしてきた。ミラはのけ反るように飛びのいて思わず悲鳴をあげる。ジョージがケタケタ高笑いをすると、喜んで兄の悪戯に加わった。
 「汚い!やめておくれ!フレッド、ジョージ!」
 「お前たち、うるさいぞ!
 暖炉の前のテーブルに立って厨房を監督していたピッツが今までで一番大きな声をあげて怒鳴った。ピッツは勢いよくずんずん歩いて、ミラたちのもとへやってくる。
 「なんだこれは!」ピッツは双子を指さして鼻息を荒くした。「こんなに下手くそなやつ、ピッツは見たことがないぞ!」
 「そうかい?」フレッドがミラから手を離し、首を傾げる。「僕たちの傑作さ。なあ、ジョージ?」
 「ああ、フレッド。これぞ芸術って感じだね」ジョージは頷いた。
 「ふざけるんじゃないぞ!」ピッツはいまや爆発寸前の形相だ。「お前ら、サンドイッチはもういい!こっちを手伝うんだ!」
 そう言うとピッツはフレッドとジョージを大鍋が並ぶ方へ連れていってしまった。しぶしぶ歩く双子の後ろ姿に、ミラはクスリ笑いが漏れる。
 「まったく……彼らは噂以上だな」キムさんが苦笑いをする。
 「この程度じゃ済みませんよ」ミラはキムさんに目をむいた。「今にまた何かやらかしますよ」
 ミラとキムさんがサンドイッチ作りを再開してしばらくするとピッツが戻ってきた。ピッツはぶつぶつと文句をいいながら、テーブルにこびりついたマヨネーズを歯ブラシで懸命に磨いている。
 「あの双子の有様と比べたら、アリーシャが料理の達人に見えてくるぞ」
 ピッツの口からアリーシャの名前が出たことはまったく予想外だった。ミラは目を丸くしてピッツに聞いた。
 「アリーシャって、アリーシャ・スミスさん?ここに来たことがあるのかい?」
 「驚いたな」ピッツが答える前にキムさんが口を挟んだ。「君、アリーシャと知り合いなの?」
 ミラはキムさんの問いにこくりと頷いた。ピッツは露骨に嫌そうな顔になり、一層歯ブラシで磨く音が大きくなった。
 「アリーシャもジェイも、ここの常連だ」ピッツは続けた。「迷惑極まりないぞ」
 「でも、ピッツだって人手が多い方が助かるだろう?」
 ミラがピッツに尋ねると、ピッツはこちらをキッと睨みつけた。ピッツは魔女と間違えられたことをまだ根に持っているようだ。
 「いいか、お前……」ピッツは恨めしそうに言った。「ピッツには人間の手・・・・なんか必要ない」
 目玉をギョロギョロさせるピッツは、特にお前の手なんかと続けて言ってやりたいように見える。
 「完全に嫌われたな、ミラ?」キムさんはミラに向かって痛烈に言い放ち、クスリと笑った。
 「参ったな」
 ミラが困惑した表情をしたそのとき、背後からしもべ妖精たちの甲高い悲鳴と、なにやらガッシャーンという騒音が響いてきた。「痛ぇ!」という声もそれに続いた。(おそらく双子のどちらかだった)
 「今度は何をした!」ピッツが双子たちの方に向かって大股で歩いていった。
 ミラ、ジェイもサンドイッチを作る手を止めて、そのあとに続いた。壁に並んでいる火のかかった大鍋の中のひとつがひっくり返っていて、そこにしもべ妖精たちが集まっている。三人に気づいたしもべ妖精の一人がキーキー声でピッツに状況を説明しだした。
 「フレッド・ウィーズリーさまが、わたくしめの注意を聞かずに……大鍋を素手で掴んだのでございます!」
 フレッドは手のひらに大火傷をしていて、痛みで顔を歪ませ、ヒーヒー喚いていた。
 「こりゃ、だめだ」ジョージがとっさに前に出てきて、早口に言った。「すぐに医務室に連れていかないと」
 ジョージがフレッドの肩を抱くように抱え、足早に厨房から出ていこうとする。──怪しい。いつもなら、まずは兄の失態に皮肉のひとつでも言うはずなのに。ジョージの様子はまるで、ピッツやミラたちにこれ以上口答えをさせないようにしているように見えた。
 二人がミラを横切ろうとしたとき、フレッドがジョージにこそこそと目配せをした。そこでミラは双子の作戦に気付いてしまった。
 「ストップ」ミラが片腕を伸ばして、フレッドとジョージを押し止めた。「医務室に行く必要はない」
 ミラはレッグポーチから薬瓶を取り出した。親指で蓋を外し、瓶の中に入っていた茶色の液体を乱暴にフレッドにぶちまけてやった。
 フレッドの手のひらの腫れがみるみる治まっていく。フレッドは目を見張って自分の手元と見つめると首を傾げた。
 「一体なにをしたんだい?」フレッドが言う。
 「ハナハッカのエキスだな」キムさんが感心したように言った。「ある程度の傷ならなんだって治るんだ」
 フレッドとジョージはキムさんからミラに視線を戻して心底不服そうにした。
 おおかた、医務室に行ったっきりにして罰則をうやむやにしようとでも思ったのだろう。しかし傷が治ってしまえば、それもできまい──皮肉なことに、ハナハッカは双子が「禁じられた森」でかき集めた材料のうちの一つだった。
 ミラは双子に対して噛みつくような目をすると、フレッドの手を取って無理やりこちらへ引き寄せた。
 「ウン、なんともないみたいだな」ミラは、フレッドの腕をこれみよがしに持ち上げて周りに見せびらかした。「このまま罰則を受けていてもなんにも問題がないだろう」
 「ミラ!君、わかっててやったな!」フレッドが急いでミラに耳打ちをする。
 「私なしで抜け出そうとするからだ」ミラは眉をひそめて返した。
 「コンチクショー。『悪友』にはお見通しってわけか」ジョージが悔しそうに大きな舌打ちをする。
 キムさんはそれを見て驚きと喜びとが入り交じった顔をした。
 「やれやれ、ずいぶんと思い切ったことをしたもんだな。さすがは期待の一年生だ」
 「ピッツはもう、お前らに料理は命令しないぞ!」
 ピッツはそう言うなり、指を鳴らした。すると突然、どこからともなく箒が二つ現れた。
 「お前ら双子の仕事は、厨房の掃除だ!」
 パチン!ピッツがまた指を鳴らす。ピッツの頭上でプカプカと浮いていた箒たちが、今度はフレッドとジョージの手中に飛び込んでいった。
 そうしてようやく、厨房に静かな時間が訪れた。ときどき目に入る双子はおとなしく掃除をしていたし、そのおかげでピッツの小言もなくなった。
 ミラとキムさんのテーブルには、もう数え切れないほどのサンドイッチ出来上がっていた。
 「やっと平和になったね」キムさんは慣れた手つきでレタスをパンに挟みながらミラを見た。
 「罰則中に平和を感じるなんて、おかしな話ですがね」ミラが苦笑いした。
 二人は黙ってまた作業に戻ったが、おもむろにミラがまた口を開いた。気になっていたことだった。
 「キムさんは、どうして罰則を?」
 キムさんは唸り声をあげた。何と言っていいのか、言葉が見つからないといった様子だ。
 「そうだな……」キムさんが考えるように言った。「禁止されているかもしれないような、されていないかもしれないような物をホグワーツに持ってきたかもしれないような、いないかもしれないようなことをしてるからかな」
 「はあ……」キムさんの言葉の意味をなかなか理解できなかったミラはおざなりに頷いた。そんな態度をよそに、キムさんの話は続いた。
 「そして、一シックルか二シックルでそれらを売っているような、売っていないような……」
 「……まさか禁制品を生徒に売りつけているんですか?」
 「『珍しい収集品』って言葉のほうがいいかな」キムさんはニヤリを顔に広げた。「そのうえ、僕が取り扱っているものはほとんど違法ではないんだ。ただ人が欲しがっている物ってだけさ──時々手に入れるのが難しいけどね」
 「……キムさんが彼らの先輩格となるわけが、今はっきりとわかりました……」ミラは力なく頭を振った。
 ──そりゃ、フレッドもジョージもはしゃぐわけだ。今、あの二人はよだれが出るほどに『珍しい収集品』が欲しいわけなんだから。
 ミラは六階の『実験室』に置いてあるおどろおどろしく煮えた鍋を思い出して遠い目つきをした。
 「大丈夫だよ、ミラ」キムさんはミラの考えを見透かしたようにふっと笑った。「フレッドとジョージが僕の商品を買うにはまだ早い。ちょびっと──いや、かなりだな──僕のは高くつくからね」
 それを聞いてミラは安心から顔が緩んでいくのを感じた。誰が見てもわかりそうなくらいホッとした表情を浮かべているのが、自分でもわかる。
 「君はわかりやすくていいね」キムさんはミラの様子にまた小さい笑い声を上げた。
 ミラの胸に、恥ずかしさがすぐに湧き上がってきた。自分のわかりやすさにおいてこの頃には、アダリンだけでなく、ほとんどの生徒にからかわれていたことだったからだ。ミラはそれをごかますためにキムさんへ笑い返したが、その笑みは厨房いっぱいに広がるつんざくような叫び声で、すぐに薄らいでしまった。
 「お前たち──もう──許さないぞ!
 ピッツの怒号だ。小一時間ぶりにまた響いた。今度は周りを確かめるまでもなく、すぐになにが起きたのかミラたちにはわかった。驚くことに、フレッドとジョージが掃除用の箒で厨房中をビュンビュン飛び回り、小さい鍋を使ってクィディッチの真似事をしはじめたのだ!
 「な、な、な、何してるんだい⁉」ミラは頭をぐいとのけ反らせて双子を見上げてから、ピッツとおんなじような怒鳴り声を上げた。
 「何って、来年に向けての練習さ!」フレッドが楽しそうに鍋をジョージに投げつけながら言った。
 「僕たちに箒を渡すってことは、それを望んでるってことだろ?」ジョージは飛んできた鍋をお玉で打ち返すと、ニヤッとする。
 ピッツが「降りてこい!」と双子のいる天井に向かってピョンピョン跳びはねている。隣にいたキムさんは、びっくり仰天といったふうな顔で頭をぼそぼそ搔いていた。さすがにもう先ほどのような期待を込めた目を双子には向けていない。
 「ミラ、この僕でさえ君の気持ちが少しわかるような気がする……」キムさんはぽつりと言った。「アレ・・の『悪友』扱いってのは耐えられないな」
 今にも体ごと爆発してしまいそうなくらい真っ赤なピッツさんに厨房を追い出されるまで、そう時間はかからなかった。ミラ、フレッド、ジョージの三人はピッツの魔法で「果物皿の絵」の外に弾き出されてしまう。尻もちをついたフレッドとジョージは、絵の扉が閉まると同時に高笑いをしはじめた。
 「見たか?ピッツの野郎の顔!」フレッドが言った。
 「僕らのいい自己紹介になったな」とジョージ。
 「な、なぜ私まで……」ミラは目を白黒とさせてうわ言のように呟いた。
 「いいじゃないか、悪友よ」フレッドがしらけた笑い方をする。「三人仲良く抜け出せたぜ。ほら、きみのご要望・・・通りじゃないか」
 「たしかに要望通りだ。しかし理想通りではないね」ミラは怒りを無理におさえこむようにニッコリと笑った。
 「理想ばかり追ってちゃきりがないぜ、ミラ」ジョージがミラの脇腹をつついた。「ほら、もうすぐお待ちかねのハロウィーン・パーティだ」
 「はやく行こうぜ。僕、もうペコペコだ」フレッドが言った。「罰則が忙しくて・・・・つまみ食いどころじゃなかったからな」
 それから地下室をあとにした三人は、大広間の各々のテーブルでハロウィーン・パーティを楽しんだ。ミラは自分で作ったサンドイッチを、罰則の時間を取り戻す勢いで誰よりも頬張ってみせて周りを呆れさせた。パーティは談話室に戻ってからも夜通し続いた。
 しかしハロウィーンをさんざん楽しんだ次の日の朝、全てを知っていたスプラウト教授に罰則の延長を言い渡されたミラは、酔眼のままうなだれるはめになったのだった。

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