ハッフルパフ対レイブンクロー

 「クィディッチ杯の幕開けには最適な日ですね。九八.三パーセントの確率ですごい興奮を体験できると思います!さて、まずはレイブンクローがクアッフルを取りました」
 独特な実況放送をするのはグリフィンドールのマーフィ・マクナリーだ。
 「アビントン選手、アメリア・ブラウンに華麗なパス――ああ!しかし、ハッフルパフに奪われてしまったようです。さあハッフルパフのチェイサー、フィンレー・テイラーが見事な急降下をみせる。素晴らしい!このままゴールに向かって飛びます――」
 ミラたちはマクナリーさんの実況に耳をそばだてながら、寒空を飛び交う豆粒の点たちを必死に追った。
 「ハッフルパフが優勢のようよ!そうよね?」アダリンが興奮した甲高い声を出した。
 「さあ、どうだろうか」ミラがつぶやくように答えた。
 「アダリン、ブラッジャーの様子もよぉく見ておいたほうがいいぜ」フレッドはピッチに焦点を合わせたままニヤリとした。「あいつら、平気で戦況を変えちまう」
 「おっと、これは痛い!」マクナリーさんの熱っぽい実況が響いてきた。「ブラッジャーがテイラー選手に襲いかかりました!すかさず、シリル・アビントンがクアッフルを奪いにかかります――見事、再びレイブンクローが取りました!」
 「ああ!もう少しだったのに!」アダリンが歯噛みした。
 「安心しな、アダリン選手」今度はリーがアダリンに言った。「さっきのブラッジャーはレイブンクローのビーターが場外に飛ばしたが、もう一つがまだ右にいる。チェイサーたちは気づいてないようだな……ビーターも見失っているみたいだ。今に飛んでくるぞ――それっ、飛んできた」
 リーの言う通り、もう一つのブラッジャーはレイブンクローのキャプテンめがけて飛び込んできた。ブラッジャーはキャプテンの後頭部に容赦なくぶつかり、その隙にハッフルパフの選手が素早く奪い返す。アダリンは歓声とともにリーに両手で抱きついた。リーはアダリンに体を揺らされながらも、得意げにまた口を開いた。
 「レイブンクローのみんな、ハッフルパフのゴールに集まりすぎだ。反対のゴールはがら空きだぞ。それにブラッジャーももう戻ってきてる。二つともだ!」リーは叫んだ。「これは……ハッフルパフに先制点が入るぞ」
 「ハッフルパフ 先取点!
 またまたリーの言う通りだった。マクナリーさんの実況にハッフルパフがワーッと沸き、やんやの大喝采がグラウンドいっぱいに広がる。ミラとアダリンもほとんど絶叫に近い声をあげ、これでもかというくらい飛び跳ねて大喜びした。
 「君、すごいな!」ミラが高揚した気持ちのままリーに話しかけた。「君には試合の動きがよく見えてるみたいだ。それに、名実況だよ!」
 「マーフィ・マクナリーの次はリーで決まりだな」ジョージが囃し立てるように言った。
 「おいおい、その気になっちまうぜ」リーは鼻の頭を掻いて照れくさそうに笑った。
 ミラとアダリンが手を取り合って歓喜の声をあげたのも束の間、ハッフルパフが先取点を取ってから試合はしばらく膠着状態になった。アダリンはじれったそうに選手たちへ視線を往ったり来たりさせながら唸っていたが、ミラがクィディッチの試合はだいたいこういうものだと説明すると、フーッとため息をついて首を振った。
 ――クィディッチ史上最長の試合は三ヵ月間だと「クィディッチ今昔」にも書いてあっただろうに……ミラはアダリンにそう言いかけてやめた。ページがちぎれるくらい「クィディッチ今昔」を読みこんでいたアダリンでさえ、実際の試合を前にしてはそんなこときれいさっぱり頭から消えてしまうのだろうと、そう予想したからだった。
 ミラはクアッフルやブラッジャー、そしてアダリンの様子に交互に目を走らせると、クスクス忍び笑いを漏らした。
 誰かがミラの肩に手を置いたのはその時だ。振り返るとジェイ・キムがニヤリ顔で立っていた。その後ろではアリーシャ・スミスとローワン・カナがほほえんでいる。
 「ジェイ!」ミラがジェイを抱きしめて挨拶した。
 「おいおい、いつの間にそんなに仲良くなったんだよ」フレッドが驚いたように言った。
 フレッドの言葉にミラは照れ臭そうに頭上のゴーグルを触った。
 実はこのところ、ミラはジェイとすっかり打ち解けていて、互いにとって仲の良い友人の一人となっていたのだ。長い間キッチンの罰則を共にしたことで奇妙な縁が生まれたのだと、ミラは思う。上級生を親しげに名前で呼ぶようになったのは、ウィーズリー家の兄弟たちを除けばジェイが初めてだった。
 「ジェイも偵察に来たのかい?」
 ミラはニヤリとした。ミラの質問にジェイは肩をすくめて、やれやれ、という仕種をした。
 「僕はなんにも。キッチンの罰則がようやく終わったと思ったら、アリーシャたちにとっ捕まってね」
 「まったく嫌な言い方だね?ジェイ」スミスさんが含み笑いを浮かべて言った。
 「恐れ多いね、いや、まったく・・・・」ジェイが笑い返した。
 ここでひどく興奮したようになったのはフレッドとジョージだ。二人は瞳をキラキラと輝かせ、スミスさんに詰め寄った。
 「アリーシャはもちろん偵察のためだよね?」とフレッド。
 「そりゃそうだ。そうに決まってるさ。なんてったってアリーシャはグリフィンドールのキャプテンなんだから!」ジョージが意気揚々に続けた。
 スミスさんがクィディッチ・チームのキャプテンであることにミラは驚いたが、それよりも気になることがあった。
 「呪われた部屋」のことだ。スミスさんとカナさんの姿を見るまで、ミラは「呪われた部屋」のことをすっかり忘れていた。ここ最近に出された山ほどの宿題、それにクィディッチ杯のせいだ。
 ハッフルパフ対レイブンクローの試合の行方は他のどんなことよりも気になるが、幸か不幸かまだスニッチの気配もない――
 「カナさん、その……大変聞きにくいんですが……」ミラは双子とスミスさんをチラッと横目に見てからカナさんに話しかけた。「『呪われた部屋』ってどうなったんですか?それに、石化された生徒も……」
 「おっと」カナさんがミラから視線をそらして気まずそうに言った。「それって、どうして知ってるの?アリーシャが言った?」
 しまった――ミラが「呪われた部屋」について知っていることを、カナさんたちは知らなかったのか。ミラははっとして思わず押し黙ると、カナさんはきわめて動揺した様子を見せた。まるで私は何も聞きませんでしたよといわんばかりに四方八方キョロキョロしだしたかと思うと、乱れてもいない髪をわざとらしくなでつけた。
 二人の周りに異様な空気が漂いはじめたことにスミスさんがすぐに気が付いた。
 「どうしたの?二人とも」
 スミスさんがミラたちを心配そうに見つめると、フレッド、ジョージ、ジェイもそれに続いた(アダリンとリーは試合にずっと夢中だ)。
 いっせいに集まる視線と、遠く聞こえるクィディッチの実況放送に頭の中が目まぐるしくなってきたミラは、ついに観念してスミスさんに自分の思っていたことを正直に話した。
 「呪われた部屋」についてミラから聞いたスミスさんは何か考え込み、視線をゆっくり移動させジェイのほうを見た。
 「ジェイ、君かい?ミラに言ったのは」
 「その話はしたかもね。例えば、『呪われた部屋』のせいで君もキッチンの常連客・・・って事とか」ジェイはなんてこともないように答えた。「でも、詳しいことはミラは前から知っていたようだったよ」
 「僕たちが教えたんだよ、アリーシャ」フレッドとジョージが二人の間に割って入った。
 スミスさんは少し驚いた様子だったがすぐに納得した顔に変わり、なるほどと頷いた。
 「そうだった、君たちも知っていたんだった」スミスさんは続けた。「何から話せばいいのか……『呪われた部屋』は今――」
 「ちょっと!その話あとじゃだめかしら⁉
 突然、そう叫んでスミスさんの言葉を遮ったのはアダリンだ。アダリンは今が一番の大興奮のときだというふうに目を白黒とさせている。なにかを伝えたいのだろうが、口元がひくひくっと震えて言葉にならないようだ。そこに、マクナリーさんのつんざくような実況が競技場の端から端まで響き渡った。
 「スニッチ!スニッチです!」実況席に座るマクナリーさんは顔を真っ赤に火照らせている。「ダッシュウッド選手がスニッチを見つけたようです。今、一直線に降下しております!」
 「あれ、ダッシュウッド・ローレルよ!ハッフルパフのシーカーがついにスニッチを見つけたわ!」アダリンが叫んだ。
 「ウワーヮヮヮァァァァァ!」ミラが我を忘れて空中に飛び上がった。「スニッチだ!スニッチが現れたって!」
 観客席にいた全員がぎょっと息を呑んでミラを見た。しかし、ミラはちっとも気にしないまま――さっきより何倍もの視線を浴びているというのに――叫び続けた。
 「いけ!そこだ!ほら、そこだよ!レイブンクローのやつらなんかに出し抜かれるな!ビーター!はやくそいつらをやっつけろ!
 「ちょっと、ミラったら!」
 「なるほど」フレッドは顎をさすりニヤーッとした。「ミラの真骨頂はスニッチが現れてからだったか」
 「ああ。ミラのやつ、『クィディッチはスニッチが現れてからが本番だ』って、昨日キッチンでも熱く語ってたよ」
 ジェイがフレッドと一緒になって笑ったが、フレッドはなぜかジェイに向かって嫌そうな顔をした。
 「ここにレイブンクロー生がいなくてほんとうに助かったわ……」
 先ほどの興奮はどこへ飛んでいったか、アダリンはため息をつき、目眩めくように額を手の甲で押さえた。
 グラウンドではハッフルパフとレイブンクローのシーカーたちによる争奪戦が繰り広げられている。ミラは目をよくよく凝らし、二人の選手を追った。スニッチはときどきキラリと金色に光るくらいで、どこを飛んでいるのかはほとんどわからない。しかし、レイブンクローがすぐそこまで迫ってきているのは観客席から見ていても明白だった。
 いくら勝ち越していたとしても、スニッチを取られたら終わりだ……このままでは負けてしまう!
 ミラは、柵から落ちるか落ちないかのところまで体をぐいっと伸ばすと、今までで一番大きな声を出した。  「ハッフルパフ――ダッシュウッド・ローレル!君と、君の箒はそんなものなのか⁉まだいけるはずだ!もっともっとスピードをあげろ!できるはずだ!
 ダッシュウッド・ローレルの箒に一段とスパートがかかる。まるでミラの声援に応えたかのようだ。フレッドたちは――それまでミラを物珍しく見つめていた生徒たちも――たちまちローレル選手、それと柵に身を乗り出すミラに釘付けになった。
 ミラの大応援に呼応するかのようにローレル選手のスピードがみるみる増していく。そして――抜いた!ローレル選手はついにレイブンクローのシーカーを追い抜き、目の前にある勝利・・へと腕を伸ばした。
 「がんばれ!ハッフルパフ!
 叫んだのはミラだけではない。アダリン――フレッド、ジョージ、リー――スミスさんとカナさんも――それにジェイまで――いつの間にか夢中になって皆ハッフルパフを応援していた。観衆はミラに続けといわんばかりに、熱のこもった応援と口笛でクィディッチ・ピッチを呑み込んでいった。もはやハッフルパフ席の主役はミラ・トウドウといっても言いすぎでないほどだ。このハッフルパフの異常な盛り上がりには、向かいの観客席にいるレイブンクロー生たちも思いがけず尻込みしているようだった。
 そして、ついにその時がきた。
 「ローレル選手!スニッチを取った!」マクナリーさんが今にも立ち上がりそうな勢いで叫んだ。「試合終了です!ハッフルパフ、一六〇対〇で勝ちました!」
 ピッチに、ハッフルパフの割れんばかりの歓声が巻き起こった。ミラとアダリンは抱き合い、フレッドとジョージはほっとしたかのように席に腰をおろした。ジェイ、スミスさん、カナさんは、さっきまで白熱していた自分たちが急におかしく思えてきたようで、お互いに顔を合わせて噴き出すように笑っていた。しかしミラにとっては、その間ずっと試合結果を叫び続けていたリーのことのほうがよっぽどおかしく思えた。
 「君のクィディッチに対する情熱、恐れ入ったよ」まだやまない拍手と歓声の中、カナさんが気の抜けたように笑った。
 カナさんの声でやっと我に返ったミラは、恥ずかしさで消え入りたい気持ちになった。自分の顔が耳まで真っ赤になっていくのがわかる。ミラは、かぶっていた飛行帽とゴーグルごと両腕で頭を抱え、震え声で答えた。
 「昔から『スニッチ』を見ると我を忘れてしまって……」ミラは腕と腕の隙間からカナさんを恐る恐る覗き込んだ。「うるさくて、ごめんなさい……」
 「大きな声援や歓声は、選手にとってとても大きな存在なんだよ――まあ、上品・・であることに越したことはないけどね……」スミスさんは苦笑いを交えて言って、ミラの背中をやさしくポンポンと叩いた。「やれやれ。君のおかげで、ハッフルパフとの試合は苦戦しそうだ」
 「キャプテン!頼むよ!」フレッドとジョージがそれとこれとは話が別だといわんばかりに同時に立ち上がり叫んだ。

 しばらくはハッフルパフ全体がお祝いムードで沸いていたが、だいたい一ヶ月が経ち、それも落ち着いた頃にクリスマス休暇がやってきた。
 ミラとアダリンは帰省のため、ホグズミード駅にいた。プラットフォームには雪のかぶった紅色の列車が黒い煙を吐きながら停車している。二人は列車のもとへ流れていく大勢の生徒たちを波打たせるかのように、前へ前へときびきび歩いた。
 ――ようやく日本に帰れる。日本でクリスマスを過ごせる、そう考えただけでミラはわくわくした。
 『イテッ!』
 突然、ミラの首筋に衝撃が走り、ヒヤッと冷たくなった。隣のアダリンを見ると、彼女も首の裏に手を当てていて、何が起こったのかと驚いた顔をしている。ミラが急いで振り向くと、頭に雪をまばらにつけたフレッドとジョージが雪玉を片手にニヤニヤを浮かべて立っていた。なるほど、ミラに雪玉を投げたのはフレッド、アダリンにはジョージだ。
 「フレッド、ジョージ!」ミラとアダリンは肩をそびやかせて同時に叫んだ。
 ウィーズリーの双子は、ミラとアダリンのムッとした顔を確認すると、満足気に駆け寄ってきた。
 「別れも告げずに去ろうとするなんて……寂しいじゃないか、悪友よ」フレッドが大げさに悲劇的な声をあげた。
 「そんなこと言ったって……たかが数日だろう?」ミラは息を深く吸い込んでから、わざとらしくため息をついた。「可哀想・・・な『悪友』がまた日常を引っ掻き回されるまで、せめてそっとしておいてやっておくれよ」
 「あら!皮肉がそこそこ上手くなったわね。ミラ」アダリンが口を挟んだ。
 「そりゃそうだろうな。四六時中きみのそばにいるんだから」ジョージが意地悪そうな顔をしてアダリンに言った。
 「ちょっと!それってどういう――」
  アダリンの眉が怒りで吊り上がり切る前に、汽笛が大きく鳴り響いた。駅の壁にかかっている時計を見ると、それが出発五分前を知らせるものだとわかった。
 ミラとアダリンは慌てて双子にさよならを言い、跳ね返るように汽車に向かって走った。(尻目に、双子がよじ登って汽車に乗り込む姿が見えた)
 プラットフォームを駆け抜ける途中、セドリックやジェイ、カナさんとすれ違い、ミラたちはおざなりに「また休暇後に!」と叫んで挨拶した。ミラとアダリンはまだ荷物すら汽車に積んでなかったのだ。
 汽車を荷物を預けた二人は空のコンパートメントになだれ込むように入って、席へと腰をおろした。
 「ぎりぎりだ。危なかったね、アダリン」
 「いいえ、ぎりぎりなのは貴方だけよ」アダリンは眉をひそめて頭を振った。「貴方がいつまでも日本に持って帰るマグル製品を迷っていなければ――さっきだって――私はジョージに最後まで文句を言えていたはずだわ」
 アダリンの皮肉に、ミラは口をひん曲げてそっぽを向いた。その時、汽車がもう一度汽笛を鳴らした。
 汽車はガタン!と一度揺れたと思うと、ゆっくりとスピードを上げて滑り出した。
 ホグズミード駅を出発し、どんどん駅が小さくなっていった。それから、窓の外には雪のかぶった山々が次から次へと流れてくるようになった。
 ミラはしばらく景色を見つめていたが、やがて長いトンネルに入ったとき、アダリンへと視線を戻した。
 アダリンは、珍しく身動きも取らずにぼーっとしていた。大好きな教科書を開くわけでもなく、杖を振って練習するわけでもない。ひたすらにミラの座る向かいの座席のクッションを遠い目で見つめているだけだったので、ミラは少し気味が悪くなった。
 「ねえ、ミラ」アダリンは虚ろな目をしたまま言った。「来年になったら、フレッドとジョージはクィディッチの選抜を受けるのかしら?」
 「まあ、そうだろうね」アダリンの様子を怪訝そうにうかがいながらミラは答えた、「ホグワーツに入学する前から言ってることだし。それに知ってる?彼ら、『隠れ穴』の裏山でずっとクィディッチの練習をしていたんだ。きっとクリスマス休暇もそれは変わらないだろう」
 「ウン、ウン」アダリンはちょっと考え込んだ。
 「どうかしたの?」
 「ウーン、ウン…」
 アダリンはまだ唸っている。自分が胸の奥にしまいこんでるものをミラに言おうか、言うまいか迷っているようだった。
 ミラは言葉の続きを促すように顎をしゃくった。
 「あの、あのね、笑わないで聞いてほしいの」アダリンがなにかを決心したようにミラをまっすぐ見つめた。「私も来年、選抜の試験を受けてみようかなって……そう思ってるの……」
 「なんだって⁉」ミラは早口で続けた。「すごい!そうだ、そうするべきだよ。あの試合のあと、君はクィディッチの選手について何も言わなかっただろう?だから私も何も聞かなかった。何か思うことがあるんだろうって……。でも、その答えが聞けて嬉しいよ。君が代表選手に選ばれたらどんなに嬉しいかって、そう思ってたんだ」
 ミラの言葉にアダリンはまだ納得いっていないような顔をした。大手を振って応援してもらうことに、まだいささか不安があるようだった。
 「あのね、今度こそ笑うかもしれないんだけれど……」アダリンがまた口を開いた。「私が選手になりたいと強く思ったきっかけは貴方なの、ミラ」
 「ええっ?私かい?」ミラは素っ頓狂な声をあげた。
 「そうなの。覚えてるかしら、あのダッシュウッド・ローレルって選手――彼女、自分の力を限界以上に出し切っていた気がするのよ。きっとミラの声援が届いていたんだと思うわ。だって、いつレイブンクローにスニッチを取られてもおかしくなった……絶対絶命だったはずなのに。彼女は声援に応えるために限界を超えたのよ」アダリンは続けた。「私もそうなりたい、声援をもらう側になりたい。そして、その声援にできる限り応えられる選手になりたいって、あの時そう思ったの」
 だから貴方のお陰なの、と最後にそう言ったアダリンは恥ずかしそうに手で顔を覆い、たじたじとした。
 「えっと、その、なんだか、嬉しいよ。アダリン」ミラもアダリンにつられるように顔を赤く染めた。「喜ばしいね。ハッフルパフは素晴らしい選手を獲得したんだ。誰よりも応援すると誓うよ」
 ミラの優しい声にアダリンは顔をあげてミラを見た。そしてポッと頬をピンクに染め、はにかんだように笑った。
 ――クリスマス休暇はこの上なく待ち遠しいが、帰ってきてからもなにかと楽しめそうだ。ミラはこつん、と列車の窓に頭をつけて、目をつむりながら日本への帰省のこととアダリンが選手になったときのことを考えて幸せいっぱいな気持ちで眠りについた。
 しかしミラは知る由もなかった。この時にはすでに、ホグワーツをゆっくりと蝕んでいた不穏の色が、もはや見て見ぬふりができないほどに濃くなっていたことを。
 ローワン・カナが死んだという報せを聞いたのは、ミラがクリスマス休暇からホグワーツに帰ってきてすぐのことだった。
 

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